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キャロル(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、エステティックサロンという女性だけの職場で働き、面倒見の良い姉(イヴォンヌ・フルノー)とアパートに暮らしている。内気なので周囲にうちあけてはいないが、男性恐怖症なのだ。姉の恋人が毎晩泊まりにくるせいで、ノイローゼ気味だったキャロルだが、姉が旅行に出かけたので、十日間ほど一人暮らしをすることになる。しかし、心細さのために、アパートの部屋で恐ろしい幻覚を見るようになる。 壁に大きな亀裂が入ったり、壁から男性の手が突き出たり、夜ごと強姦犯が侵入したりと、ポランスキーはアパートの部屋を女性器に見立てて、男性恐怖症の娘の妄想を演出していく。なかでも上手な小物使いは、部屋の片隅に無造作に置かれた料理用のうさぎだ。うさぎという弱々しさを湛えた小動物の、皮をむかれた姿の痛々しさ。それが日ごとにすえていく。あたかもキャロルの心のように痛んでいく。 重度の男性恐怖症が描かれているのに、意外にもその原因は示されない。しかし、周囲の親身な女性たちが誰ひとり察することができないのは、キャロルに男性恐怖症の原因になりうる過去が無いからだろう。代わりにポランスキーは、キャロルの何気ないしぐさに子供っぽさを漂わせ、アパートの居間に幼少時代の家族写真を一枚置いた。普段からぼんやりしているキャロルが、根っからの内向的な空想癖であることを暗示するために、ひとりだけ別の方向に見入っている。 おそらく内面は子供のままのキャロルにとって、年齢とともに成熟した肉体になったことは、不本意な闖入者の標的になってしまったという不幸なのだろう。この作品に漂う恐怖は、男性恐怖症によるものというより、キャロルのような内気な空想癖には自然なことである、自分の気持ちをひとりで抱え込む習慣と、豊かな想像力とが災いして、ひとりきり熾烈な妄想から出られなくなってしまうという恐怖なのだ。 みずから外に助けを求めるという発想は、キャロルの辞書に落丁している。バリケードをした部屋の中で、誰にも気づかれずに正気を失いながら、恐れている空想の強姦犯を楽しみに待つなど、拒絶と迎合の両極端を転がりはじめ、叫び声ひとつあげずにおとなしく狂っていく。淡々と観察するようなポランスキーの作風がよく効いた、静かに迫るサイコ・スリラーだ。 (2004/08/21) |
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