キャスターの願い




「買い出しですか?」

 外に出ようとしていたキャスターに、声をかけてくる者が居た。
 確か住職の息子の一成だったか、とキャスターは判断した。

「いいえ、外の空気を吸いに行くだけです」

 無視をしても良かったのだろうが、戯れにキャスターは会話を交わすことにした。
 が、予定の行動を遮られた苛立ちからか、彼女の言葉は刺々しかった。

「そうですか、すみません。私はてっきり」
「てっきり?」
「手料理でも、宗一郎―――葛木先生に作るのだろうかと思いまして」

 自らの勘違いに照れながら、柳桐一成はそう言った。
 キャスターは眉を顰め、

「そうですね、それも良いかもしれません」

 それから一成に別れの言葉を述べ、キャスターは外に出た。
 外は快晴。青い空が抜けるようだったが、淀んだ気を纏う柳桐寺にあってはそれを十分に堪能する事はできない。
 だが、それで構わない。
 聖杯戦争の中にあっては、そんな事も、先ほどの短い会話さえも瑣末事なのだ。
 キャスターのクラスはサーヴァント中最弱と云われる。その中で聖杯戦争に勝ち残るには、一切の油断もあってはならないのだ。


―――ただ、その会話の内容はキャスタ―の心に何故か留まっていた。







 夜の柳桐寺はどこよりも暗い。
 それは、キャスターと言う反英雄が根城にしているからであろうか。


 彼女は寺の一室で策を練る。
 どうすれば聖杯を手に入れられるか。他のサーヴァントよりも優位に立てるか。
常に考えていることだが、夜に一人でいる時は、より思考を巡らす。
 と、背後に気配を感じた。
 だが、別に驚異に感じる事は無い。その正体が自分のマスターである、葛木宗一郎だからだ。
 彼は何も言わない。彼女も何も言わない。
 ただ過ぎて行く時間。
 キャスターの思索は既に止まっていた。
 マスターの許可無しに行なっている策が多いため、後ろ暗い。
 その無意識的な気持ちが原因だった。
 その時ふと、止まっていた思考の中に、昼間の会話が浮き出てきた。
 些細な事、無関係な事、気にしてはいけない事。
 だと言うのに、彼女は頭に浮かんだ質問を口にするのを止められなかった。

「―――宗一郎」
「なんだ、キャスター」
「………私が貴方に料理を作ったら、驚きますか」

 彼女の呼吸数は知らず知らずのうちに上がっていた。

「それもサーヴァントの役割か」
「っ……! い、いいえ」
「ならば、そんな事をする必要は無い」

 解り切った答えだった。彼にそんな余分な事は必要ない。キャスターはサーヴァントとして、マスターである宗一郎と共に聖杯戦争を勝ち抜く為だけの存在なのだから。

「ただ、」

 もう開かないだろうと思っていた宗一郎の唇が、再び言葉を紡いだ。

「お前が作るというのなら、私は止めない」

 感情の籠らないセリフ。それは葛木宗一郎の平時からのモノだった。
 しかしその言葉には、よく聴けばきちんと感情があるのだ。

「ええ、ではいずれ」

 そんな機会はないし、そんな余裕も無い。



ただ、二人で聖杯戦争に勝ち残って、その後も自分が存在し続けていられたならば。
キャスターは、そんな事を思った。



薄暗がりの部屋の中。
マスターとサーヴァントは、再び無言に戻る。









後書き

FATEキャラ人気投票、その応援作品第一作目です。これと共に、虎竹刀の二話を大幅加筆修正した物を送ってます。

宝具“虎竹刀”という、藤ねえメインな小説を書いてますが、灰谷はFATEキャラの中ではキャスターが一番好きです。

もちろん、キャラ投票も1番目はキャスターにしときました、ええ。

凛ルートの、あの素顔イベント絵一枚で陥落した訳です。

キャスターが何位を取れるのか、というか、どの辺までいけるのか非常に注目しております。



で、小説ですが、こんな事があったらいいなぁ…って言う願望です、願望。よって、シリアスな上にラブラブです。

うちのサイトにしては割と珍しい事態ですが…。

ちなみに、一応設定では凛ルート7日目昼〜夜ですが、余りこだわってません(ぉぃ




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