超零細本格出版社ヘの道
鴻巣山散歩会議
「九州文化図録撰書前夜または小笹のプロジェクトX」
のぶ工房発行人 遠藤順子
◆「『太陽』とか『芸術新潮』みたいな本って、私たちふたりで作れないかな」
数年前、経営戦略会議でふと口をついて出たこのことばが、はじまりだった。
◆経営戦略会議といっても、それはすなわち、ご近所を散歩しながらの夫婦の会話である。
◆そのころ私たちの仕事は「印刷媒体制作よろず引き受けます業」的編集プロダクションだった。
図録や学校や会社の記念誌や自費出版を扱い、DMやパンフレットの仕事もしていた。
必要ならば広告コピーやコラムも書いた。
◆仕事は楽しくやりがいがあったが、
どんなに努力したところで、引き渡して代金をいただけば、
もうそれは私たちの手を完全に離れ、先方のものとなってしまう。
その繰り返しを淋しく思っていた。
◆自分で企画して自分のお金で自分で売る本をつくりたいと思いはじめていた。
それで冒頭の言葉が出てきたのである。
◆写真や図版をたくさん使った、眺めて楽しい、読んで面白い本を自主企画でつくる。
たとえば『太陽』のような本を。
◆九州の文化をテーマに掘り下げてみよう。アイデアはどんどん出てきた。
◆編集はできる。豪華本や図録の装丁・編集は、山ほどの実績がある。
写真や図版の扱いはわが社の得意分野だ。DTPデータを作る機材も技術もある。
◆広告は、お手のものだ。
自費出版の本を書店に置いてもらうときに大体のやり方は覚えたから、営業と販売も何とかなる。
◆問題は本の材料を限られた予算内で集めることだ。
もっともお金がかかるところは写真である。
しかし、悩むこともないことに気づいた。
私はといえば、一眼レフは子供のころからの仲のいい友達だし、
夫は長い間プロの写真をセレクトしてきた身だ。
二人ともカメラの腕には自信がある。
「自前の写真を印刷物に使う」
という発想が、私たちにこれまでなかっただけだ。
中判カメラさえあれば、
見開きA3サイズの印刷に耐えうる画質が得られるだろう。
自分たちでやろう。
◆『太陽』もしくは『芸術新潮』のような本をたった二人で作る、
というある意味途方もない緊急動議を可決して経営戦略会議は終了。
◆最初のテーマは長崎街道に決め、その日のうちに編成表を引いた。
「自主企画で本をつくる」プロジェクトはこのようにしてゼロから動き出した。
そして二千年十一月、
『九州文化図録撰書』の創刊第1号の『長崎街道/大里・小倉と筑前六宿』を
上梓するに至ったのである。
◆長崎街道1〜3まで、執筆と印刷・製本以外は、一切の外注なしで作ることができた。
『九州文化図録撰書』は、今や私たちの主力商品である。
◆その間にも、社史や図録などの仕事をいくつか並行して行っている。
もっと効率的な方法もあるだろうけれども、
納得できるものを丁寧に作っていくのが私たちの方法である。
◆労働と余暇の境界は不鮮明きわまる。
読書のほとんどは仕事に関する本で、取材や撮影や営業のための移動が旅行である。
他の個人事業者と同じく、労働法規とは別の世界に住んでいる。
週七日は当然。長時間労働もまた当然である。
◆とはいえ、そう不健康な生活でもない。会議は散歩しながら行い、撮影や取材も運動。
職場は禁煙。仕事が大好きなので、気晴らしの必要もない。
◆朝、起きて、まず西の空を見る。
晴れていれば撮影に出掛け、曇っていれば資料探しに出掛けるか仕事場でデータ整理である。
晴耕雨読ならぬ晴撮曇編。
◆九州の歴史資源と、それを愛する執筆者と読者、書店の皆様に感謝しつつ、
地味で幸せな日々から幸せな本を生み出していきたいと思っている。
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