ハインリッヒの法則


テーマ「子供への忠告の時期」


キーワード「気づいたそのとき、その場で一声を」



――渋瀬さん、今日のテーマは「子供への忠告の時期」についてということですが、具体的にはどんな場面の話ですか。


渋瀬 具体的には、ある方の娘さんが結婚されて、娘さんの親の所有する家を借りて住み始めた状況の中で、親御さんから相談を受けました。


――娘さんご夫婦は、結婚したばかりなのですか。


渋瀬 いえ。すでに結婚後、何年かアパートを借りて生活していましたが、子供が生まれて手がかかりだしたので、近くの親の所有する家に引っ越してきたのです。


――子供への忠告ということは、娘さん夫婦が何かを起こしたのですか。


渋瀬 ええ。引っ越して来るなり、取り替える必要などまったくない備え付けの郵便受けを、娘さんが自分好みの郵便受けに取り替えたり、新しいソファーを買い込んだりと、今、必要がないことや勝手なことをいろいろとし始めたのです。


――親の所有だから、アパートと違って、遠慮なく改造してもいいと思われたのではないですか。


渋瀬 その「遠慮なく」の部分が問題だと、親御さんは思ったようです。


――遠慮なく、修理修繕や改造をすることに問題があるのですね。


渋瀬 アパートなら、借りるときに借家契約、賃貸借契約を結びますよね。
 そのときに、「勝手な修繕はいけません。普通に使って汚れる以上に汚した場合には、引っ越すときに敷金からハウスクリーニング代を引きます」というような説明を受けるはずです。普通、契約書にもそのような内容が書いてあります。


――確かに書いてありました。でも、今の例では親御さんの所有する家ですよね。


渋瀬 そうです。つまり、自分の家ではないということに、私は注目しました。
 
ですから、私は賃貸借契約書を取り交わすようアドバイスしました。契約書は、予想できない将来のことに備えるのが重要な役目ですから、娘さんのご主人と、娘さんの親御さんとの間で、賃貸借契約書を取り交わすのです。


――けじめをつけるという意味ですね。


渋瀬 そうです。それから、蓄えがあるわけではない若い夫婦が、今のような厳しい就職環境の時代に、しかもまだ子供が赤ん坊ですからどんなことで急なお金が必要になるかも知れないときに、家が広くなったからといって、あれこれを一度に買いそろえようとする考え方に問題があると親御さんは思われたようです。


――では、親御さんは、すぐに注意をされたらいかがでしょう。


渋瀬 その「すぐに」ということを、親御さんがためらったようなのです。


――なぜですか。


渋瀬 親御さんが、仕事が忙しいこともあって、後回し、後回しにしているうちに、言い出すきっかけを失ったのではないかと想像しました。
 そこで、今後言い出すきっかけを考えるときに、後回しせずに、すぐに注意することが大切だと教えてくれる法則の説明をしました。


――どんな法則ですか。


渋瀬 今から74年前に、ハインリッヒという人が、55万件の労働災害のデータを調べて発表した事故の法則、1:29:300の法則です。


――ずいぶん昔の法則ですね。


渋瀬 次のグラフを見てください。




 死亡事故を含む重大な事故が1件発生する場合、その陰には29件の軽傷事故が起きており、さらに300件の事故とまでは言えないヒヤリとしたり、ハットしたようなことがあるという法則です。


――以前、ヒヤリハットの法則としてご紹介いただきましたね。


渋瀬 そうですね。74年前の法則以外に、46年前や29年前にも、100万件以上の事故を調査した、同じ法則が発表されています。


――大変多くの事故を、過去から最近まで調べているのですね。


渋瀬 これらの法則をグラフにしてみますと、そこには共通していることがあります。その特徴を次のグラフで説明しましょう。




 どの法則も、それぞれの項目の間にはこのグラフのような関係があります。
 
私はこのかたちを見たとき、ジェットコースターを思い出しました。「事故号」といいますか、「事件号」という名前をつけたジェットコースターの法則と言いたいような気持ちです。


――ジェットコースターが、高いところから下り始めて、一番スピードがついたところまでのかたちですね。


渋瀬 ジェットコースターは、最初はゆっくり、ゆっくり滑り出しますよね。そして、一番下の一番スピードがついた付近では、急ブレーキを掛けても誰も止めることはできないでしょうね。


――「ヒヤリ」を通り過ぎて、「軽い」事故が起きる頃には、もう「重大」事故は止められないということですか。


渋瀬 そうです。勢いがついていますから、もう誰にも止められません。


――最近は、振り込め詐欺や通り魔事件などが増えていますから、こうした事件を元から断たなければ、重大事故は止めようがないとしたら、怖い話ですね。


渋瀬 そうですね。そこで、重大事件を1/3にまで減らしたことで有名な犯罪都市、ニューヨークのジュリアーノ市長が採った思い切った犯罪抑止策を思い出してほしいのです。


――ジュリアーノ市長の活躍は有名ですね。


渋瀬 何をしたかと言いますと、「徹底した落書き消し」と「軽犯罪の取り締まり」をおこなったというものです。


――ということは、ジェットコースターのグラフでいいますと、どのようになりますか。


渋瀬 「おかしい?」と思うようなことに対して、積極的に声を出して注意忠告をし、ジェットコースターのスタート台を低くしてやり、ジェットコースターにスピードをつけないということです。


――そのためには、グラフのタイトルになっている「気づいたそのとき、その場で一声を」掛けることが大切だというわけですね。


渋瀬 そうです。二十歳過ぎての親の意見、四十過ぎての周囲の意見というように、気がついている親や周囲が注意忠告すべきことを黙って言わないようにしているから、もう止められないところまでスピードがついているということだと想像してほしいですね。


――このグラフのかたちを頭に思い浮かべながら、気がついたことを、そのときに、その場で言えば、まだ感情的にならないうちに相手に伝えることができるでしょうから、伝わりやすいかも知れませんね。


渋瀬 そうですね。そうして親子間の関係が悪くなる前に、問題が小さいうちに意見を言い、話し合って解決してほしいですね。
 そうした習慣が身につけば、軽犯罪法にも書かれている、ごみを捨てる行為、大きな音をたてる行為、人につきまとう行為、はたまた、行列に割り込む行為、成人式で騒ぐ行為などについて、「難問解決!ご近所の底力」を使うまでもなく問題解決し、ひいては身の回りから重大事故を防ぐことに繋がるかもしれませんね。


――今日は、「子供への忠告の時期」についてということで、「気づいたそのとき、その場で一声を」掛けましょうという内容で行政書士の渋瀬清治さんにお話をおうかがいしました。渋瀬さん、ありがとうございました。


(平成17年3月11日放送)