軽度発達障害児の理解と対応

北海道こども心療内科氏家医院  氏家 武

1.軽度発達障害とは

発達障害・行動障害のうち、知的障害を伴わないもの(IQ70以上)を総称するが、健常との線引きが難しく、障害なのか個性(性格)なのか判然としない。

家庭や学校でさまざまな不適応を起こすことが多く、主たる要因が脳の機能障害であると想定されるため特別な配慮と対応を要する。

実際には、知的障害を伴わない広汎性発達障害(自閉症やアスペルガー障害)、学習障害(読字障害、書字障害、計算障害など)、発達性言語障害、発達性協応運動障害、知的障害を伴わない注意欠陥多動性障害、境界線知能(IQ70〜85)水準などが含まれる。

 

2.自閉症に関する医学用語について

広汎性発達障害:非定型的な自閉性障害を含むより幅広い自閉症の疾患概念であり、従来「自閉傾向」と診断された領域を含む。本質的な障害は自閉症と変わらないと考えられる。

高機能:知的障害を有しないという意味であるが、IQが70以上とするという考えと、85以上とする考えがあるが、数値で区別することに大きな意味はない。ここでは、高機能という用語は用いず、知的障害を有しないとする。
アスペルガー症侯群:1944年にドイツの児童精神科医アスペルガーが
、@社会性の障害(対人関係、集団での不適応)、A感情移入の障害(自己中心的で共感性に乏しい)、B興味の限局(特定の対象に興味集中し、ユーモアがない)、C多動、不器用、常同行動などの身体症状、D特異的かつ独創的な言語発達を特徴とする自閉的性格傾向を報告した。今では自閉症の一群で、幼児期に言語発達そのものには遅滞が認められなかった場合にそう診断されている。

 

3.軽度発達障害児のこころを解くキーワード

@特異的知覚

人に対して恐怖心を抱いたり興味関心が持てないだけでなく、機械や水、文字、マークなど無機質的なものに対して生物的な意味合いを感じたり、あたかも人的な意味づけをしてしまう心理。

A強い対人緊張不安とそれに対する心的防衛機制としてのこだわり

生まれながらにして人に向かう気持ちが弱く、成長する過程で徐々に人間関係に対して強い緊張不安を抱くようになる。こだわりへの没頭は恐ろしい人間関係を回避し、安全で楽しい自己世界への逃避と考えられる。

B活発な情動記憶とタイムスリップ現象(フラッシュバック)

 強い感情(特に不快な陰性感情)と結びついた出来事に対する記憶力が良く、それと似たようなことを体験すると瞬時に過去の深い体験を思い起こし、現実と混同してパニックを起こす原因となる。

C客観的思考の障害

思考能力として強い自己中心性がいつまでも続くため、客観的思考ができない。そのため、言動が「わがまま」と誤解されやすい。

D視覚的思考優位

コミュニケーション能力に全般的な障害が認められるが、状況の視覚的理解は良好なことが多く、理解力をアップさせるには視覚的てがかりが有効なことが多い。

E最初から人が嫌いなわけじゃない。

人間関係をうまく作れないため、幼少児期からいじめを受けたり、不必要に叱責されることが多い。そのような否定的対人関係が積み重なった結果として、人に対して不信感や嫌悪感が形成されることがある。

 

4.軽度発達障害と行動障害の連続性

軽度発達障害児に時に反抗挑戦性障害や行為障害などの行動障害が認められることがあるが、そのようなことが起こるのは軽度発達障害に伴う衝動性の異常が反社会性を帯びた時にのみ認められるものである。

軽度発達障害と行動障害は本質的には異質のものであり、本来はその成り立ちは全く異なるものである。行動障害の主たる要因は家庭と学校を含む環境要因、対人関係の問題である。

 発達障害児には強い対人的過敏性が潜行して存在するが、積み重なる不快体験により一気に他者への嫌悪感が暴発したり、いじめられ体験によって敵対的な対人関係が固定化され、他者からの働きかけに対して暴力的に反応してしまうことが多い。

 

5.衝動性障害への対処

@こども自身のセルフコントロール力を育てる

先ず、こどもに自分が衝動的で攻撃的なところがあるということを気付かせ、相手が嫌がっているという感情の変化にも気付かせるよう教える必要がある。

乱暴な言動を見過ごす必要はなく、しっかり戒めてかまわないが、朝から晩まで叱ってしまうようなことにならないようどの行動をターゲットにするか皆で一致しておくこと。また、叱ると同時に、その代わりの自己表現手段をしっかり教えることが重要である。

A褒めておだててその気にさせる

こどもが自分で自分の行動をセルフコントロールしてみようという気になれるのは、そのようなことをした時に自分が認められる時である。こどもの自己評価が高まれば高まるほど、こどもはやる気を出してセルフコントロールするようになるものである。

B注意集中・注意持続を図るには、注目すべきもの(刺激)を大きく多したり、刺激を二重にも三重にも与えたり、刺激を与える回数を多くする。また、集中を散らさないためには不必要な刺激は最小限にし、注目すべきものをできるだけこどもに近ずける。教室では席を廊下側や窓側にせず、一番前の真ん中にする。常に声かけをして課題にこどもを集中を持続させるのも効果的。

 

6.軽度発達障害児の学校教育に望むこと

医療現場から学校教育に望むことは、先ず軽度発達障害を抱えて悩んでいる親子がいるということを知ってほしいということである。軽度発達障害の主たる原因は家庭環境要因ではなく、先天的な脳障害が想定されている。

発達障害に対する医学的抜本的治療方法は現時点では有効なものはなく、このような軽度発達障害児の個性に見合う特殊教育のあり方を確立してほしいものである。特に、一般教育現場の中で言語・認知機能障害と社会性障害をどのように教育していくのか、具体的な取り組みが明らかになると良いだろう。

発達障害児に行動障害が生じるような、二次的な情緒障害の派生を予防するための対処をしっかりとしてほしい。周囲からの障害に対する偏見や否定的評価をなくし、自己評価を高める支援を行ってほしいと考える。