自閉症児309例の臨床特徴の分析:高機能自閉症とアスペルガー症候群の臨床特徴に関する調査研究

 

著者:氏家武1)、松田孝之1)、森享子2)、片山若子1)、村上千佳1)、山本優子1)

 

所属:1)北海道こども心療内科氏家医院、

2)ロンドン大学付属精神医学研究所

 

はじめに

対人関係の困難や衝動的行動による集団不適応などの社会性障害を起こす子どもの中に、知的に障害がないかあっても軽度の自閉症と(高機能自閉症:HFAと略す)アスペルガー症候群(ASPと略す)を有する子どもが含まれていることがある。従来、自閉症の大半は知的障害を有するため幼児期に診断が確定することが多かったが、HFAやASPは幼児期早期にその診断を下すことが難しいと思われる。このような子どもが不適応行動を起こすに至る病態はまだ明らかにされていないが、早期診断によって不適応行動の派生を予防する対策を立てることは急務であると考えられる。

目的

この研究の目的は、広汎性発達障害(PDDと略す)のうち自閉症、ASP、その他の広汎性発達障害(PDDNOSと略す)と診断を受けている子どもの臨床的特徴を調査し、HFAとASPに対する早期発見と不適応行動の派生に対する予防対応を考察することである。

方法

調査対象は平成16年8月から17年1月の6ヶ月間に当院を受診し、自閉症(IQ70未満とHFAの2群に分類)、ASP、PDDNOSと診断された患者309例である。その臨床特徴(診断時の年齢、性別など)、知能検査結果、学校や家庭、幼稚園などでの適応状態、併発障害などを後方視的に調査した。

結果

 調査対象の内訳(表1)は、男児252例、女児57例、合計309例である。診断の内訳は知的障害を有する自閉症117例、HFA132例、ASP36例、PDDNOS24例であった。調査対象の自閉症下位診断分類による男女比を表2に示す。初めて診断を受けた年齢と親が子どもの発達を初めて心配した年齢を表3に示す。また、87例に実施したWISCVのVIQ、PIQ、FIQの平均値を表4に示した。さらに、多動性障害、てんかん、強迫性障害、不登校、うつ病などの併発障害や不適応行動の有無を表5に示した。




































 

考察

最近6ヶ月間に当院を受診した広汎性発達障害の総数は309例であった。当院が開設された平成12年度に受診した広汎性発達障害児は一年間で200例であったことと比較すると、広汎性発達障害児は累積的に急増していると考えられる。

309例の広汎性発達障害のうち、知能検査や臨床症状などによって知的障害を有する(IQ70未満)と診断された自閉症は38%、HFAは43%、ASPは12%、その他の広汎性発達障害は8%であった。従来、自閉症の大半は知的障害を有すると考えられていたが、自閉症に対する認識の高まりを反映して、医療機関を受診する知的障害を伴わない自閉症やアスペルガー症候群が増えているものと思われる。

広汎性発達障害全体の男女比は従来の報告とほぼ同じで、4.4対1の割合で男児に多かった。特にHFAではその傾向が顕著である一方、ASPでは逆に男女比が低くなっていた。これはHFAとASPの生物学的基盤に違いがあることを示唆するものである。

親が子どもの異常を始めて心配した年齢と診断を初めて受けた年齢ではどちらもASPとHFAが他群に比べて遅かった。ASPは言語発達に遅れがなく、HFAでも言語発達は比較的良好なため、医療機関への受診が遅れ、就学後になんらかの集団不適応が生じてから医療機関を受診するために診断が遅くなると考えられる。

309例中249名に知能検査(田中ビネー式あるいはWISCV)を実施したが、IQ70未満の自閉症の平均IQは63、HFAの平均IQは90、ASPは平均IQ105、PDDNOSは平均IQ72であった。WISCVの言語性IQと動作性IQの比較では、知的障害の有無に関わらず自閉症では言語性IQが動作性IQに比較して低かったが、ASPでは逆に言語性IQが高かった。HFAとASPは知能構造の面においても違いが認められた。

HFAとASPには発達経過中にさまざまな併発障害と不適応行動が生じていた。幼児期に多動性障害と診断・治療を受け、多動が軽減した後に自閉性が顕在化してHFAないしASPの診断が確定したケースが多かった。また、学齢期前期にはチック症の併発が多く、青年期前期から不登校や引きこもり、強迫性障害、うつ病、乱暴行動などの併発障害や不適応行動などが多かった。HFAとASPにこれらの問題が派生するのを予防するには、言語発達以外の自閉的徴候(社会性の障害)をターゲットにする早期発見システムを構築し、確定診断をできるだけ早く受けさせること、そしてそれに基づいて社会性の発達促進をターゲットにする早期支援システムの構築が重要である。


表1 調査対象の内訳
IQ70未満の IQ70以上の アスペルガー その他の広汎性 合計
性別 自閉症 n=117 自閉症 n=132 症候群 n=36 発達障害 n=24
男児 94 112 28 18 252
女児 23 20 8 6 57
合計 117 132 36 24 309
表2 広汎性発達障害下位診断分類の男女比
診断分類 男女比
IQ70未満の自閉症(N=117) 4.1:1
IQ70以上の自閉症(N=132) 5.6:1
アスペルガー症候群(N=36) 3.5:1
その他の広汎性発達障害(N=24) 3.0:1
広汎性発達障害全体(N=309) 4.4:1
表3 親が初めて発達に心配を感じた時期と初めて診断を受けた時期の比較
診断分類 親が初めて発達に心配を感じた時期 初めて診断を受けた時期
IQ70未満の自閉症(N=117) 23.4ヶ月 3.0歳
IQ70以上の自閉症(N=132) 26.2ヶ月 4.5歳
アスペルガー症候群(N=36) 32.4ヶ月 7.0歳
その他の広汎性発達障害(N=24) 25.2ヶ月 4.9歳
広汎性発達障害全体(N=309) 25.9ヶ月 4.3歳
表4 下位診断分類によるWISCVの結果(平均値)
IQ70未満の IQ70以上の アスペルガー その他の広汎性 合計
自閉症 n=1 自閉症 n=54 症候群 n=26 発達障害 n=6 n=87
VIQ 63 82.8 112.8 91.2 92.1
PIQ 79 90.4 100.5 92.4 92.4
FIQ 68 85 107.6 83 91.4
表5 併存症・不適応行動
IQ70未満の IQ70以上の アスペルガー その他の広汎性
自閉症 n=117 自閉症 n=132 症候群 n=36 発達障害 n=24 合計
多動性障害 5 31 16 4 56
てんかん 7 5 2 1 15
強迫性障害 0 2 2 0 4
不登校 2 0 4 0 6
うつ病 0 0 0 1 1
暴力行為 1 3 1 0 5
チック障害 1 4 2 0 7
その他 5 5 3 2 15
合計 21 50 30 8